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奈良地方裁判所 昭和59年(わ)126号 判決 1984年9月03日

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中一〇五日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和五九年四月六日午前六時ころ、奈良県生駒市萩原町四九五番地の自宅において、フエニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末約〇・〇五グラム(耳かき約二杯)を水に溶かし、自己の左腕部に注射して使用したものである。

(証拠の標目)(省略)

(累犯となる前科)

被告人は(1)昭和五四年一〇月八日大阪地方裁判所で窃盗、覚せい剤取締法違反罪によつて懲役一年二月(執行猶予三年、右猶予取消昭和五六年二月二七日)に処せられ、同五七年八月一七日右刑の執行を受け終わり、(2)昭和五五年一一月二五日奈良地方裁判所で覚せい剤取締法違反罪によつて懲役五月に処せられ、同五六年六月一七日右刑の執行を受け終わり、(3)昭和五六年三月二五日奈良地方裁判所で覚せい剤取締法違反罪によつて懲役一〇月に処せられ、同五八年六月一七日右刑の執行を受け終わつたものであつて、右事実は検察事務官作成の前科調書によつてこれを認める。

(法令の適用)

一  罰条         覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条

一  累犯の加重      刑法五六条一項、五七条(各前科との関係で各再犯)

一  未決勾留日数の刑算入 刑法二一条

一  訴訟費用の負担免除  刑訴法一八一条一項但書

なお被告人は、判示認定の犯罪事実は認めるものの、その捜査の手続については疑義を主張する。即ち、昭和五九年四月一一日午前九時三〇分ころ、警察官が被告人方を訪ねてきて、被告人の承諾がないのに被告人が眠つていた奥八帖間まで勝手に入り込んできたうえ、その身分を明かすこともなく被告人に同行を求めたので、金融屋であると誤信してついて行つたところ、そこが警察署であり、しかも、その日の夕方逮捕状によつて逮捕される迄の間も留置され、かつ検尿のための小便をとられたのであつて、その間の身柄のとり扱いの手続に疑問がある旨主張し、弁護人も右の一連の事実をもつて直ちに事件の成否を左右することにはならないが、その手続に問題が残る旨指摘するので、検討してみるのに、前掲司法警察員中嶋忠彦作成の捜査報告書、証人小出雅康の証言及び被告人本人の当公判廷における供述を総合すると、被告人方居宅を訪れた警察官は被告人に任意同行を求めるため同所に赴いたのであるが、その際被告人の確実な承諾をえないで被告人方居宅に入り込んだ疑いは否定し切れないのであるが、その後被告人は任意に右居宅の外に出て、かつ警察官の車であることを知りながら任意にその車に同乗して同日午前九時五一分頃警察署まで赴いたこと、更に警察署内においては、被告人はその体内に尿がたまるまで同所にいて、同日午前一一時三〇分ころ警察官に対し尿を提出し、同日午後二時三〇分ころ尿の鑑定結果が判明したため、警察官は被告人を取調べて二通の供述調書を作成したうえ逮捕状請求手続に入り、同日夕方被告人を逮捕したこと、しかしてその間被告人が右の尿の提出及び取調を拒否したり、帰宅したい旨の意思を明確に述べた形跡はうかがえず、右に加えて右二通の供述調書の分量(一六丁)、供述内容等に照らすと、被告人は任意に警察署内に留まつてかつ任意に取調等に応じていたものと認めるのが相当であり、結局、右の任意同行とその後の任意の捜査によつて作成現出した証拠にはその証拠能力に欠けるところはないものというべきである。なお被告人もその居宅に警察官が勝手に入つていた点については強い不満の気持を持つものの、その後の捜査手続はおおむね了承しているものと解せられる。

よつて主文のとおり判決する。

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